この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
相談者である会社は、都内中心区に所在する木造平屋建ての建物・敷地を購入しました。同建物には、30年ほど前から飲食店が賃借していましたが、相談者は、賃借人を立ち退かせ、木造建物を取り壊して事務所ビルを建築するという計画でした。そこで、相談者から、賃借人に対し、ある程度の補償をするので、当該建物から立ち退いてほしいと申し入れをしました。しかし、賃借人からは1億円の立退料を支払ってもらえるのならば立ち退いてもいいという回答があり、相談者としてはどのように対応すればよいか相談がありました。
解決への流れ
相談を受け、まずは適正な立退料を試算しました。試算根拠は、下述しますが、約1500万円とはじき出しました。その上で、賃借人側(すでに代理人がついておりました。)に対し、交渉を申し入れしました。賃借人側も、不動産鑑定士に立ち退き料を6000万円と鑑定させて来たのですが、当方の立退料提示額1500万円とあまりにギャップが大きく、任意の交渉では合意に至りませんでした。そこで、東京地裁に立退き訴訟を提起しました。両者の主張・立証の末、立退料2700万円で立退きを認める和解が成立しました。
建物の普通賃貸借においては、契約期間が満了となったとしても単純に賃借人が建物を明け渡すことはありません。借地借家法28条においては、「・・・建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件としてまたは建物の明渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申し出をした場合におけるその申し出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなけければ、することができない。」と規定されています。ちなみに、「財産上の給付」のことを、通常「立退料」と呼んでいます。そこで、建物の賃貸人としては、賃貸人側に正当事由がある(充足している)ことを主張し、正当事由が足りないことを保管するための「立退料」については、賃借人として立ち退くことによる不利益について金銭化して主張することとなります。「立退料」は、本案件のような商業テナントの場合、①転居先賃料との差額の補償、②未償却資産の補償、③引越しに係る費用、④営業補償の合計額となります。今回の案件については、まず「正当事由」における”建物の現況”については、建築後相当年数経っており、耐震診断をしたところ、大地震が来た場合倒壊の恐れがあるという診断結果によって建て替えの必要性があることを立証しました。また、建て替えた場合、10階程度の中層階ビルを立てることができ、現状の平屋建てと比較して有効利用が図れることから、”建物の利用状況”においても建て替えの必要性を立証しました。「正当事由」の充足についてはある程度裁判所にも理解いただきましたが、やはり立退料が問題となりました。一番の争点となったのは、いわゆる借家権価格を立退料に含めるかどうかという点でしたが、当方としては借家権価格はあくまで相続税などの税務目的で必要となるにすぎず、抽象的な机上の数値にすぎないという主張をして、裁判所も当方の主張を認めてくれて、借家権価格を含めない数字である2700万円ということで和解が成立したものです。賃貸人側の立退き交渉としては、立退料額をできる限り精緻に試算して、賃借人側に理解してもらうということになるかと思います。