この事例の依頼主
男性
相談前の状況
勾留直後での私選弁護の依頼がありました。依頼人(被疑者)は逮捕直後から否認していました。当夜夫婦で飲食し、夫婦とも酩酊している状態であり、帰宅後2階へ上がる階段で、夫は妻に対して早く寝るよう促して背中を軽くたたいたくらいで、頭部への暴行を否認していました。妻は階段を上がり2階寝室に入ったところで突然倒れてそのまま死亡したとの供述でした。
解決への流れ
弁護人選任後、妻の死亡原因が脳底動脈瘤破裂であったことに着目しました。致命率が極めて高く、短時間で速やかに死に至る病気です。解剖所見で妻の既往症として脳底動脈瘤があったことや、日ごろから頭痛を訴えていたことから、脳外科臨床医に医学的所見を聞きました。それによると脳底動脈瘤は、必ずしも外力が加わった時ばかりではなく、食事中、或いは入院中のような安静時でも破裂する可能性があることを聞き、それを裏付ける医学文献を証拠として提出し、脳外科臨床医の証人尋問を行いました。さらに頭部(顔面)の特有な文様が残っていることにつき、法医学者の証人尋問で、妻が倒れて、その状態から救急隊員が救助するまでの間、倒れた状態であったことにより、床のカーペットの文様が顔面に刻印されたものである可能性が高いことを立証することができました。判決は、頭部への暴力行為の立証がなく、病死の可能性が高いとして無罪判決となりました。この事件は一旦公判審理が終結しましたが、弁論再開申立てをして、脳外科臨床医と法医学者の証人尋問を行うことで、病死の可能性が高いことを立証しました。依頼人は否認のまま起訴されたのですが、直ちに保釈請求を行い、保釈決定を得ました。
依頼人である被告人は、逮捕時から否認を貫きました。依頼人の周辺の関係者からの聴き取りで、夫婦仲が良かったことが確認できましたた。弁護人と依頼人との信頼関係を築くことができ、そのことも依頼人が最後まで否認を貫けた一つの要因となったと考えています。勾留直後から弁護人に選任され弁護活動ができたことも大きな要因であったと思います。勾留後の取り調べにおいて、否認を貫くことは相当ハードルは高いものです。刑事事件では、逮捕後から勾留までの間の72時間が「ゴールデンタイム」であると、司法研修所の弁護教官から教わっていました。このことは他の案件でも実感しています。逮捕後すぐにでも被疑者のご家族が相談に来られることをお勧めします。