この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
肺の異常所見を指摘されてから、異常所見の診療のために、5年以上定期的に通院し、多数回の胸部CT検査を受けていたにもかかわらず、経時的に増大・悪化していく肺腺癌の所見について、精密検査の受診を勧められなかった。漫然と経過観察が続けられた結果、他院において肺腺癌との診断を受けた際には、事実上治療不能な末期癌の状態になっていました。その後、抗がん剤等の治療を受けたものの、結局、肺がんによる死亡に至ったという事案です。ご遺族から依頼を受けて、訴訟を提起しました。
解決への流れ
協力医の意見書を提出し、協力医、被告主治医の尋問などを経て、判決に至りました。裁判所は、医師は、肺のCTないしレントゲン画像に肺癌の所見と合致する陰影の存在を認めたときは、いたずらに経過観察をすることなく、患者に対し、肺癌に罹患している可能性があることを適切に説明した上、肺癌の確定診断を行うための気管支鏡検査を含む精密検査を受けるよう勧めるべき義務を負うものというべきであると認定し、具体的な事実経過に即して、病院側に義務違反があると認定しました。
被告病院側は、統計によれば、StageⅠBの臨床病期の5年生存率は、63.4~66.1%(転移等があれば更に低い)であり、現実の死亡時点で生存し得た高度の蓋然性はなく、過失と死亡との因果関係が認められないとの反論もしてきました。これに対し、当方は、協力医の意見書、証言等により、当初の病期は、StageⅠBで転移もなかったこと、腺癌の進行速度は比較的遅いとされる上、実際の経過に照らしても、進行速度は遅かったこと、持病もなかったことなどから、早期に外科治療が行われていれば予後は良好だったと考えられ、平均余命までの延命可能性があったと反論しました。その結果、判決は、病院側が注意義務を尽くして肺がんの治療が早期に開始されていれば、外科手術による根治可能な状態であったとして、平均余命までの延命可能性を認定し、約4200万円の損害賠償を認めました。病院側は控訴しましたが、控訴審でも、裁判所の心証はかわらず、一審判決と同様の内容で和解をしました。