この事例の依頼主
60代 男性
A社の従業員の雇用問題に関するトラブルですで。A社の社員Xは、採用してからすぐの段階から他の従業員とトラブルを起こしていました。他人から注意をされるとすぐに反発し、トラブルの仲裁に入った上司に対しても自分が正しいということを譲らずに、強い反発的な態度を示めしておりました。A社の社長Wとしては、Xを解雇にしたいという強い希望があったが、その後の労働トラブルを恐れて解雇に踏み切れずにいました。Wさんの友人が経営している会社が当職の顧問先であったことから、当職がWさんの相談に応じることになりました。
当職の回答としては、現段階では「絶対に解雇をしてはダメだ!」というものでした。即時に解雇処分にしたとしても、これを訴訟などの手続きで争われると解雇無効と判断され、会社側が解決金として給料の1年分程度(労働審判なら半年分程度)、あるいはそれ以上を支払わなければならないところでした。また、社員Xさんは、長年、国家資格の試験の勉強を続けてきた人であったため、法律の知識が豊富だったため、下手な対応をすると足元をすくわれる可能性があり、慎重に対応をする必要があると判断をしました。解雇処分をするのではなくて、退職勧奨ということで「退職をしてほしい」という会社側から要請をすることをアドバイスしましたが、Xさんは一切退職するつもりはないということでした。そこで、戦略を変えて、解雇処分をとったとしても無効にならないようなエビデンス作りをするようにアドバイスをしました。まずは、2か月程度の期間を設けて、Xさんに対して改善を求める指導をするように会社側にアドバイスをしました。指導をする場合には指導内容を書面にしてその都度交付し、具体的に、いつ、どのような問題行動があり、今後どうしてほしいのかという点についても具体的に記録化するように言いました。さらに、書面を交付するだけではなく、面談の機会を設けて面談においても注意をするように伝えました。その後、2か月経過した時点においても、度重なる指導をしたが、態度が改まる様子がありませんでしたので、最後通告を書面でするように伝えました。そうしたところ、態度が改まるどころか、新しく派遣で入ってきた女性ともトラブルを起こすようになり、社内の人間関係が悪化し、会社としては業務を円滑に遂行することが困難な状況になっていました。そこで、A社としては、Xさんの解雇をすることを決断しました。まずは、解雇理由書を事前に準備をしておく必要があると考えたので、会社の人事担当者と協議を重ねて、解雇理由書の書面を見れば解雇が有効になったとしてもやむを得ないと判断されるような文面(事実関係をすべて時系列で説明をしました。)を作成することにしました。そのうえで、解雇通知書と解雇理由通知書をXさんに交付し、解雇の通告をいたしました。Xさんはかなり不服そうでしたが、予想通り、その後、Xさんから①残業をしたののに残業代が支払われていないこと、②不当解雇であり解雇が無効であるという内容の訴訟を提起してきました。審理を進めていく中で、残業については、Xさんが自分でつけていた日記に残業時間が記載されていましたが、残業中に具体的にどのような仕事をしたのかがはっきりせず、タイムカードなどの客観的な資料に基づく残業代の立証がなかったため、Xさんの主張は退けられました。問題は、解雇が有効か無効かという点についてですが、裁判所は、会社側としてやるべきことをやっており、そのうえでの解雇であるという心証を持ってくれ、解雇が有効であるという判断をしてくれました。そのまま判決をもらえば勝てる訴訟でしたが、判決になれば、控訴をしてくることが確実であったため、退職金名目で1か月分の給与を支払って、合意退職をしたという形で和解をすることにいたしました。
問題社員を解雇するためにはどうしたらよいのかという相談は、使用者側から相談を受けることがよくあります。そのときに私がアドバイスをするのは「解雇は原則としてやめた方がよい」ということです。日本の法制度の下では、労働者はたまに過剰であると思われるほどに守られています。解雇をするためには法的な考え方に基づいて、法律家のアドバイスの下で行われる必要があります。そうしないと、将来的に訴訟や労働審判を起こされた場合のリスクが大きいからです。たまに、「うちの会社は社会保険労務士を入れているから大丈夫だ」などとお話しをされる経営者の方がいますが、社会保険労務士の方は、解雇無効の訴訟や労働審判における実務業務を担当しているわけではないので、必ずしも訴訟を踏まえたアドバイスができるわけではありません。弁護士に相談をしたうえで、解雇手続きについてどうするかについて検討をされた方がいいかと思います。